
第5話 勝ち鬨 (初出:週刊少年マガジン2018年30号)
炎獄天狗を倒した武田尚虎を筆頭に、勝利の歓喜を上げる武田武士団。鬼の支配から解放された事を喜ぶ町の人々や父親の話が真実だったと実感する小次郎の傍らで、武蔵は尚虎の言葉に納得の出来ないものを感じていた。
第6話 文句 (初出:週刊少年マガジン2018年31号)
尚虎の余裕綽々な上から目線の褒め言葉にキレた武蔵は、自分の初手柄を取られた悔しさを思いっきり彼にぶつける。尚虎は武蔵の気持ちと行動を理解した上で、彼を逆撫でする一言を耳打ちしながら、あるものを手渡す。
第7話 天下統一 (初出:週刊少年マガジン2018年32号)
武蔵と小次郎は尚虎から貰った鬼を探せる道具をきっかけに、更なる絵巻物の内容を読み解く。其処には尚虎の本当の目的が書き記されていた。
第8話 外の世界 (初出:週刊少年マガジン2018年33号)
竜山町を出て鬼鉄騎に乗りながら旅を続ける武蔵と小次郎。しかし、初めての旅に慣れないせいか早速2人は喧嘩を始めてしまう。途中で食料調達の為に魚釣りをしていた武蔵は、仲直りをしようと小次郎の元へ向かったが・・・。
第9話 罠 (初出:週刊少年マガジン2018年34号)
小次郎を襲った少女、服部つぐみはその場に駆け付けた武蔵にも襲い掛かる。彼女の色仕掛けにも負けず格闘で追い込む武蔵だったが、途中で鬼鉄騎を奪われてしまう。
第10話 小雨田武士団 (初出:週刊少年マガジン2018年35号)
つぐみを追いかけてきた武蔵と小次郎は、小雨田武士団が所有する五月雨城に辿り着く。再び目の前に現れ彼女に不信感を抱きながらも、2人は武士団の城の中の様子を知る。
第11話 側にいるよ (初出:週刊少年マガジン2018年36・37号)
武蔵と小次郎は帰城した小雨田英雄によって豪華な食事をもてなされるが、武士団や鬼について無知な事がばれると彼の命令によって拘束されてしまう。一方で、つぐみは強い武士を連れてこなかったのを英雄に糾弾されていた。
第12話 ぐちゃぐちゃ (初出:週刊少年マガジン2018年38号)
つぐみは武蔵に言いたいことがあるなら言った方がいいと諭されるものの、混乱して彼等を拒絶してしまう。そして、彼女は英雄からの総動員令に歯向かおうとするが・・・。
第13話 今がその時 (初出:週刊少年マガジン2018年39号)
牢屋から脱出した武蔵と小次郎は、遠くから迫ってくる「木霊」の大群を目撃する。その頃、つぐみは英雄に逆らう勇気を出そうと姉の事を思い出していた。
「オリエント」第2巻からは、生まれ故郷の竜山町を出た武蔵と小次郎が遂に旅を始める。そして、彼等は小雨田武士団と其処に所属するつぐみと出会う事になる。今迄は武蔵を中心に物語が進んでいたが、少しずつ小次郎やつぐみにも焦点が当てられていく。
武蔵の友人であり相棒でもある鐘巻小次郎。彼は父親の自斎と共に先祖が武士の家系であり、その出自だけで言えば武蔵よりも余程「武士」に近いと言える。しかし、小次郎は幼少期からの武士に対する差別によりその誇りを忘れかけていたが、鉱山での武蔵と鬼神の闘いを見て再び彼と鬼退治をする決意を固める。
基本的に武蔵との関係は良好な小次郎だが、自分よりも武士としての誇りや覚悟を持つ彼に尊敬と嫉妬の両方の気持ちを持っているようである。武蔵と旅を始めた矢先に喧嘩を始めた時は、自分の生活力の高さを彼に誇示して後に自己嫌悪に陥るといった、年相応な面を見せている。とは言え釣りが上手かったり牢屋の中から鎖を使って鍵を奪ったりと、武蔵よりも全般的に器用であるのが彼の大きな取り柄であると言える。
小雨田武士団の団員である服部つぐみは、その立ち位置と境遇から「マギ」に登場するモルジアナと類似する点が見られる少女である。彼女は相応の実力を持っているにも関わらず、自分が仕える男の精神的な束縛により自分の意思を持つ事を放棄させられている。
元々つぐみは姉のつばめと2人姉妹であり、両親の居ない彼等は小雨田英雄の元で生きていた。つばめは優秀な忍びとして腕を奮っていたが、現在のつぐみと同じように英雄の理不尽な叱責を浴びていた。そんなつばめが戦で亡くなってしまうと今度はそのお鉢が彼女に廻ってきたのである。
つぐみもまた、優秀な忍びとして武蔵と小次郎を追い込める程の実力を持っているが、長きに渡る英雄の精神的な暴力は彼女の自尊心や意思をどんどん疲弊させていった。その為につぐみは、彼からの命令を遂行する事が自身と武士団全体の幸せに繋がると考えるようになっていた。しかし、英雄による領民も巻き込んだ総動員令はさすがの彼女も鵜呑みには出来ず、彼に歯向かい城下の人々を助けることが本当の武士としての責務であると考えるようになる。
英雄の命令で、時に色仕掛けを使いながら冷徹に武蔵と小次郎を追い詰めようとするつぐみだが、城下町で子供達と戯れる彼女の姿は1人の女の子でありつつ、つばめのようなお姉ちゃんらしさを見せている。心の底では英雄に言われるがままの自分が間違っている事に気付いていたが、長年蓄積されてきた精神的なダメージにより彼に依存するようになってしまい、自分の本心が分からなくなってしまっていた。
精神的な暴力で縛り付けられて、心神喪失気味な迄に追い込まれるつぐみの描写は、「マギ」のモルジアナの時よりもパワーアップしているように感じられた。つぐみは精一杯の抵抗をしようとして、英雄の肖像に刃を突き立てようとするが、身体が何故か動かない。彼女が英雄の幻影に囚われかけたその時、彼の肖像が描かれた壁をぶち破って鬼鉄騎に乗った武蔵と小次郎が現れる場面は、爽快感を味合わせてくれる。自分は何も出来ないと苦しむつぐみに対して、武蔵は手を差し伸べる。彼女に必要なのは無理強いして従わせようとする英雄ではなく、彼女を本当の意味で認めてくれる武蔵達だったのである。
第7話で武士団が鬼退治をする理由は、全ての鬼を倒した時に果たされる「天下統一」を成し遂げる為だという事が明らかになる。武田尚虎も、人民を鬼神の支配から解放するという大儀名分を掲げつつ、その向こうにある「天下統一」を目指しているようである。だが、小雨田英雄のように天下統一の為には人民すらも犠牲にしようとする考えを持つ悪しき武士も居るようである。鬼神を倒す唯一の希望として武士団がその活躍を望まれているが、全ての武士団が同じように正義を果たそうとしている訳では無いのかもしれない。
木霊の大群が迫る中、武蔵と小次郎そしてつぐみの3人は小雨田英雄の総動員令を阻止しようと動き始めた。弱き人々を守る武士としての彼等の戦いが始まろうとしていた。
追記
マガジン連載当時、本編の最後に予告されたサブタイトルのうち、実際には変更されたものがいくつか存在する。変更される前の謂わば仮タイトル扱いとなったものを此処に纏めておく。
第5話 自由を求めて
第6話 万華鏡
第7話 宣戦布告
第11話 家族
第13話 お姉ちゃん