第23話 魂の色 (初出:週刊少年マガジン2018年49号)
小次郎は刀の試しを受けて、裂空八重桜の正式な所有者として認められる。その頃、武蔵の目の前に現れた黒い玉は人型に変形した矢先に彼を握り潰そうとする。
第24話 水中で呼吸はできない (初出:週刊少年マガジン2018年50号)
鬼鉄刀を使えない「忌み人」であるとして、武蔵は周囲の人々から武士になる事を諦めるように促される。武蔵と小次郎の間で気まずい雰囲気が流れる中、青色鬼神「阿形・吽形」が姿を現す。
第25話 裂空八重桜 (初出:週刊少年マガジン2018年51号)
小次郎は鬼鉄刀を使い初めて鬼を倒した事で、自分が鬼退治をしているという実感を得る。武士達が鬼神退治をする為に山頂へ向かう一方で、戦いに参加出来ず悔しさを覚える武蔵の元に再びあの男が現れる。
第26話 武蔵の生い立ち (初出:週刊少年マガジン2019年1号)
鬼神が居る大東鉱山の内部を移動中、つぐみは小次郎から武蔵の出自を聞かされる。そして、黒いフードの男は武蔵に向かって、自身から飛び出す黒い鉱石を見せつける。
第27話 やっと会えた (初出:週刊少年マガジン2019年2・3号)
武蔵は突然現れた謎の男を怪しみつつも、自分の気持ちを分かってくれる彼に心を許しそうになる。しかし、男の本当の目的は武蔵を鬼鉄刀そのものにする事だった。
第28話 黒曜の女神 (初出:週刊少年マガジン2019年4・5号)
武蔵を巨大な穴に突き落とした男、犬飼四郎は彼の中に居るとされる「黒曜の女神」を探していた。武蔵は溶岩に落ちて死ぬか、それとも黒い鉱石になるかの残酷な二択を迫られる。
第29話 女神との対話 (初出:週刊少年マガジン2019年6号)
武蔵は意識を保ったまま自らの身体から生えている黒い鉱石を利用して、地上に戻ろうとする。しかし、謎の声を発した存在により彼は鉱石の中に閉じ込められてしまう。
第30話 死人のように生きる (初出:週刊少年マガジン2019年7号)
謎の存在によって武蔵は己の過去をまざまざと見せつけられる。其処に居たのは、自分の存在を認めて貰えず何をする事も許されない孤独な少年時代を送る武蔵だった。
第31話 刀狩り (初出:週刊少年マガジン2019年8号)
大東鉱山の山頂に辿り着いた小次郎達が見たものは、首の無い戦闘不能の鬼神だった。小次郎の言葉に頷くように現れた四郎は、その圧倒的な力で武士達に襲い掛かる。
第32話 武士の生き方 (初出:週刊少年マガジン2019年9号)
黒い鉱石になりかけた武蔵だったが、偶然にも四郎の部下である犬坂七緒によって地上に引き上げられる。小次郎とつぐみが居る大東鉱山の山頂へと駆ける中、武蔵は彼が自斎に向かって石を投げてしまった後の出来事を思い出す。
オリエント第4巻では、武蔵が鬼鉄刀を使えず武士としての生き方を見失いそうになったり、鬼鉄刀を持ちながらも鬼神退治とは異なる目的で動く犬飼四郎と犬坂七緒の登場といった、波乱を呼ぶ展開が繰り広げられる。
鬼鉄刀はこれまで本編中でも呼称こそ出てきていたが、詳細な情報は明らかにされてこなかった。鬼神の弱点である真角を折るには鬼鉄刀が不可欠であり、それを使える事が武士としての何より必要な資質とされている。既に登場した武田尚虎、服部つぐみ、小雨田英雄も鬼鉄刀を持っている事が窺える。「マギ」で登場した「ジンの金属器」と違い、手に入れる手段はかなり容易であり「忌み人」でなければ、ほぼ誰でも使えるようである。
つぐみが持つ鬼鉄刀は「飛燕双流剣」と呼ばれるものである。普段は着物の袖の下に隠しておき戦闘時にはトンファーのように刃が展開する携帯性に優れた武器である。英雄が持つ鬼鉄刀は名称不明だが、弓の形状をしていて光の矢を放つ事が出来る。鬼鉄刀と言っても様々な形状の武器があり、必ず一般的な刀剣状のものでなければならない訳ではないようである。
第25・26話で武蔵より先に鬼鉄刀「裂空八重桜」を手に入れた小次郎は、彼や逃げ遅れた母娘を救う為に初めての鬼退治を行いそれに成功する。半ば武蔵に引っ張られる形で共に鬼退治の旅を始めた小次郎だったが、彼には武蔵ほど武士として戦う事の矜持や誇りを持つ事が出来ていなかった。しかし、自分の鬼鉄刀を使い人を救う事により、ようやく武士としての心構えを強く意識出来るようになったのである。以前、竜山町で暮らしていた頃では得られなかった充実感や自信を手に入れ、周りの武士と共に勝利の美酒を味わう彼の笑顔はとても嬉しそうである。
小次郎のつぐみへの語りや「黒曜の女神」の力を通じて、武蔵の幼少時代の頃が遂に明らかとなる。彼が当時から武家の血を引く小次郎と自斎を差別しなかったのは両親の影響もあったのだが、彼等が流行り病で亡くなってから状況は一変する。守ってくれる人たちが居なくなってしまった武蔵は、子供の身でありながら武家に味方する非国民として差別を受けるようになる。
居候先を転々とし、受け入れて貰えた家でも居ない者同然の扱いを受ける武蔵の心は、どんどん冷え切っていく。自分を拒絶する世界で生きていてもそれは死んでいるのと変わらない、そう考えた武蔵は自分を受け入れてもらいたいという切な願いに押され、非常な言葉と共に自斎に石を投げてしまう。案の定、彼は自斎に対する罪悪感や自分の本心とは違う行動をした事への自責の念に駆られる。
しかし、彼の心を救ったのは他の誰でもない鐘巻自斎である。彼に申し訳ない事をしたと謝る武蔵を許すどころか、親子2人の恩人として逆に感謝の言葉を述べる。自斎にとって武家の人間を差別せず、しかも息子である小次郎の友達として接してくれる武蔵は真に尊敬出来る人間だったからである。
今の辛い境遇に居る彼の気持ちを察した自斎は、そのうえで彼に生きて欲しいと諭す。武蔵は彼の優しく力強い言葉に大粒の涙を零す。自分を気にかけてくれて生きる事を肯定してくれた人が目の前に居る。彼の心に再び生きる事への希望の灯がともった瞬間である。それから武蔵は鐘巻家に引き取られ、自斎の生き方を己が目指す武士の生き方として踏襲していく。
武蔵は小次郎と違い生まれながらの武士ではない。しかし、自斎によって心を救われた彼はその武士としての志に惹かれ自らも同じ道を歩む事を決意する。武蔵の追い求める強さは腕っぷしだけではない、自分の信念に基づいて突き進む心の強さこそが彼の追い求める強さであり、武士としての生き方である。今巻では武士を目指す武蔵の根幹を成す過去や心情といった部分が深堀りされて、より人間的な魅力が深まったと思う。
第3巻の19話から既に登場していた男、犬飼四郎は「黒曜の女神」を狙ってるようである。そして、それは武蔵の中に在るとして彼を溶岩に突き落とし、彼を追い詰める為に小次郎の命も狙おうとしている。「忌み人」とされる武蔵と「黒曜の女神」にはどんな関係があるのか。そして、武蔵は仲間を救い鬼鉄刀を使えるようになるのか、目指すべき武士の姿に思いを馳せた彼の戦いが再び始まろうとしていた。
追記
マガジン連載当時、本編の最後に予告されたサブタイトルのうち、実際には変更されたものがいくつか存在する。変更される前の謂わば仮タイトル扱いとなったものを此処に纏めておく。
第23話 声
第24話 阿形・吽形
第27話 黒
第28話 深淵
第29話 記憶の逆流
第30話 武蔵の記憶
第31話 抜刀
第32話 役立たず