2018年12月26日発売の、週刊少年サンデー4・5合併号の電子版を買って読んだ。今思い出すと少年サンデーを最後に読んだのは約8カ月前であり「だがしかし」が連載終了してから一度も買っていなかった。その筆者がこうして再び本誌を買ったのは、ある短編を読みたかったからである。「だがしかし」の登場人物の一人である尾張ハジメを主人公に据えた「いとおかし」、それを読んで感じた感想等を簡潔に纏めたい。
「いとおかし」では尾張ハジメの過去が描かれている。具体的には、彼女がプロの漫画家としてデビューしようとしていた頃の出来事である。「だがしかし」本編でも、ハジメは漫画を描いていたと読み取れる描写がいくつもあった。この回で彼女が本当に、プロの漫画家を目指していたことがハッキリしたのである。
この頃のハジメは、漫画を描くことに並々ならぬ情熱もとい、ある種狂気じみている執念を持っていた。其処だけ捉えると、もしかするとココノツ以上の才能を持っているのかもしれない。しかし、その執念は同時に彼女自身を蝕んでいた。面白い作品を創る、それは何かを創作する人間にとって当たり前過ぎる程に、大事な事ではあると思う。だが、それと引き換えに自らを滅ぼしてしまうことは善い事ではないのだ。そのせいか今作での彼女は、どことなく重い雰囲気を携えており、眼に光が宿っていないのである。
今作にはもう一人、メインの登場人物が居る。本編でもココノツと関わりを持つ事になる、漫画編集者の原林である。彼は最初から、ハジメの漫画に対する向き合い方の異常さに気付いていた。しかし、ハジメのネームに引き込まれるあまり、彼女に対する向き合い方が担当ではなく読者としてのそれになってしまっていたのが、原林の失敗であった。そして、彼はハジメの為にある決断を下すのである。
この短編には、読者の知らない漫画の創り手達のやり取りの一端が込められている。漫画家の漫画に対する向き合い方、漫画編集の漫画家とその作品に対する向き合い方、それらは本編のテーマとは些か外れているとはいえ、其処には確かに読者を引き込ませるものがある。
物語のラストに姿を見せた「現在」のハジメは、とても生き生きとしていて暖かな雰囲気に包まれていた。彼女が我々の知る「ハジメさん」になったその陰に、原林という功労者が居たのは間違いないだろう。