ワガママハイスペックの面白いのは、登場人物たちの掛け合いが非常にアクティブで活きているからである。
筆者にとってワガママハイスペック(以下ワガハイ)は、Purple softwareのアマツツミの次にプレイした2本目のエロゲである。ワガハイでの登場人物の会話は読んでいて殆ど飽きなかった。主人公の鳴海幸樹と生徒会メンバーやクラスメイトとの会話は面白く、本当にその場面に立ち会っているかのような嵌り具合だったのである。元々、ワガハイには程度の差はあれ個性的な登場人物が多く、そんな彼等が織りなすやり取りやコミュニケーションには心をくすぐられるのである。
例えば生徒会でのやり取りで言うと、必ずと言っていいほど幸樹に対して未尋が茶々を入れてそこに兎亜が乗っかり、アーシェがツッコミを入れるなどある種の様式美のような会話が繰り広げられる。彼等の関係性にはいい意味で遠慮が無いし、其処には信頼と親密さが溢れているのを感じ取れる。
ワガハイではサブの男キャラが比較的多く、劇中の奥行きが広がるのに一役買っているようである。例えばアマツツミでは男のサブキャラは浅川光一だけであり、ワガハイには佐藤虎太郎に猪狩雅人、沙流川金次郎の3人であり多いと言える。
本作はエロゲなのでその性質上、主人公とヒロインのやり取りが多くなるのは当たり前ではある。しかし、主人公とは言え男が女子とばかり会話をしているのも、些か不自然と言えば不自然にも見える。ワガハイでは彼等3人のお陰でその違和感が軽減されている。それに登場人物が多ければそれだけ物語の展開における幅が広がるので、ユーザーを飽きさせないようにする要因にもなるのである。
アマツツミに比べるとワガハイには大分方向性が違う。前者にはある明確な目指すべき到達点があり其処に向かい物語が進むが、後者はそうではない。ワガハイは些細なきっかけによりその色を変えた「イマ」を楽しもうとする物語だと筆者は考える。だから先に何が起こるかは分からないし、分からないから目の前の日常を目一杯生きる。少なくとも漫画原作者である秘密を持つ幸樹にとって、その日常は他人には代わり映えしないものに見えてその実、掛け替えのないものなのである。ワガママハイスペックをプレイしてその掛け替えのない「イマ」を楽しんでみることを筆者は読者に勧めたい。