51kcal 「愛ってなんだ・・・!!!」(初出:ジャンプSQ. 2017年8月号)
2年に進級した千早さん達は、志真以外の4人全員が同じクラスになる。より痩せたい理由が出来た千早さんに対して、岸辺さんがここぞとばかりに食べ物を勧めてくる。
52kcal 「お前もっと他に言うことあるだろ」(初出:ジャンプSQ. 2017年8月号)
真知と彼女の新しい友達に、より美味しくなるチョコパイの食べ方を披露した志真は、千早さんにもその方法をLINEで送る。最初は彼女からの返信で笑顔になるが、それだけでは満足出来ない彼は直接電話する。
53kcal 「そんなものにかまってる暇はない‼」(初出:ジャンプSQ. 2017年9月号)
志真に付き合おうと言われて喜び悶える千早さん。今の彼女には食欲よりも彼と付き合える事の嬉しさの方が圧倒的に勝っていた。
54kcal 「俺は無敵だ——————!!!」(初出:ジャンプSQ. 2017年9月号)
千早さんの彼氏になった志真はその嬉しさで、情緒不安定な状態に陥る。そんな彼に追い打ちをかけるように岸辺さんから、千早への好意をはっきりと言葉にしろという説教のLINEが大量に届く。
55kcal 「・・・私が着ても似合いますかね・・・」(初出:ジャンプSQ. 2017年10月号)
岸辺さんは千早さんを連れて、彼女が初デートで着る為の服をコーディネートする買い物に連れ出す。それに合わせて彼女は裏で志真に連絡を取り、強引にデートの場所を変更させる。
56kcal 「当初の目的はこれではない・・・」(初出:ジャンプSQ. 2017年10月号)
千早さんと志真の初デートの日がやってきた。岸辺さんと累が影から見守る中、2人は最初はぎこちない感じだったが少しずつ良い雰囲気になっていく。
57kcal 「カメラ見なよ・・・」(初出:ジャンプSQ. 2017年11月号)
岸辺さんと累は、千早さん達とは別に動物園を楽しんでいた。その後のファミレスで岸辺さんと累に煽られながら、志真は千早さんとのツーショット写真を撮る。
58kcal 「次っていつだ・・・?」(初出:ジャンプSQ. 2017年11月号)
スーパー銭湯にやってきた4人は岩盤浴に入る。今日のデートで頑張りを見せられなかったと考えていた志真は、のぼせた千早さんをお姫様だっこして男を見せようとする。
59kcal 「照れるわ」(初出:ジャンプSQ. 2017年12月号)
岸辺さんは前回のスーパー銭湯で、累に肩車をしてもらった事に多大な羞恥を感じていた。身体を動かして気を紛らわそうと走りに行った彼女だが、途中で千早さんと累に出くわしてしまう。
60kcal 「はずかしいから無理」(初出:ジャンプSQ. 2017年12月号)
学校で綾目さんも加えて動物園に行った時の話で盛り上がる中、岸辺さんは累のせいで自分だけ恥ずかしい思いをしている事に憤り、いつもの余裕が無くなる。
61kcal 「素直になりたいなあ」(初出:ジャンプSQ. 2018年1月号)
累が千早さんと一緒に走るようになっているのが、なんとなく気になる岸辺さん。一方で志真は、千早さんからの暫くぶりの電話に飛びつく。
62kcal 「はいって言わないと終わんないよこれ」(初出:ジャンプSQ. 2018年2月号)
志真と北代くんは花音のマイペースっぷりに振り回されていた。そして、花音は志真が千早さんと付き合っているのを知ると、彼女と久しぶりに電話で話してみたいと言い始めた。
63kcal 「俺 普通に見たい」(初出:ジャンプSQ. 2018年2月号)
電話越しの花音との再会の後一抹の不安を感じた千早さんだったが、今の彼女には既に付き合っている彼氏が居るのを知って一安心する。一方、岸辺さんは以前から話に出ていた猫カフェに行きたくないとごね始める。
64kcal 「惚れた惚れた」(初出:ジャンプSQ. 2018年3月号)
千早さん達が猫カフェにやってきた。岸辺さんは累の自分に対する振舞いを見て、改めて彼が女子に好かれやすい器量を持っているのに気が付く。
65kcal 「明日休みだし」(初出:ジャンプSQ. 2018年3月号)
志真は猫カフェに行った千早さん達の写真を見て、自分がその場に居ないというさみしさを思い知らされる。そして、花音に焚き付けられた彼は急遽千早さんに会いに行こうとするが・・・。
66kcal 「まだかな・・・」(初出:ジャンプSQ. 2018年4月号)
朝一で地元に着いた志真は、時間潰しに今迄千早さんと来た事のある思い出の店を巡る。しかし、彼は校門で千早さんを待っている間、彼女が本当に突然会いに来た事を喜んでくれるのかと不安に陥ってしまう。
67kcal 「会いたいなあ・・・」(初出:ジャンプSQ. 2018年4月号)
千早さんは志真から返信が無いのを気にして、綾目さんに相談する。以前とは違う志真が傍に居ない生活に寂寥感を抱いた彼女は、今度は自分が彼に会いにいけばいいと考え、学校を出たその時・・・。
68kcal 「そのままが好きです」(初出:ジャンプSQ. 2018年5月号)
千早さんの家で志真を含めた5人が久しぶりに勢揃いして、徹夜で再会を楽しむ。翌日の朝、千早さんと志真は近所の河川敷でチョコパイを楽しむ。そして・・・。
68kcal その後・・・
単行本4巻の描き下ろしである。
第4巻をもって「千早さんはそのままでいい」は完結を迎えた。最終巻では千早さんと志真が付き合う事になってからの初デートや、彼等の遠距離恋愛ならではのやり取りを中心に描かれている。そして、51kcalからは基本的に千早さんサイドと志真サイドに分かれて物語が進む。
志真サイドでは彼を中心に、妹の真知や転校先で出会った北代くん、そして47kcal(第3巻収録)で先駆けて登場した花音が主に登場する。
花音は千早さんと志真の中学校時代のクラスメイトであり、現在は志真の転校先の高校に在籍している。また、千早さんにとっては少なからず因縁のある人物である。彼女はロングの黒髪にカチューシャを身に付けていて美少女という言葉が似合う風貌をしているが、性格や言動に関して言えばどちらかというと残念な気質である。
花音にとって人生最大の関心事は恋愛であり、現在北代くんと付き合って青春を謳歌している。彼女は好きになった相手に一直線になるタイプで、出来る限り彼と一緒でなければ気が済まない。共に同じクラスでないのが束縛に拍車をかけているようである。ただ、デートは頻繁に行っているらしく2人の関係は割と良好なようである。そして、自分の容姿が良いと分かっていながら人にそれを肯定させたり、会話の流れをすぐ自分の方に持っていきたがる等、マイペースでナルシシズムな一面を持っている。
46kcal(第3巻収録)において中学校時代に、花音が志真の事を好きでありその日の放課後に告白しようとしていたのが、明らかになっている。そして、2人がその後親密そうにしているのを見た千早さんは、彼に振り向いて貰う為にダイエットを初めて決意したようである。
ちなみに、志真と花音が付き合っていてキスをしていたのかは、本編で明確になる事は無かった。47kcalで彼はキスをした事は無いと言っており、実際に千早さんがその場面を見ている訳でも無いからである。千早さんは度々志真が忘れっぽい性格であると言っているが、流石に自分の色恋に関する記憶を簡単に忘れられるものとは思えない以上、実際の所は付き合う迄の関係には至らなかった可能性もある。
しかもその時期は、千早さんと志真が一時的に疎遠になっていた時期と重なっており、千早さんの思い違いも多少は混ざっている可能性も無きにしも非ずである。後に志真と花音が初めて再会した場面も特に明示されてはおらず、仮に彼等が過去に付き合っていたとしたらその時に双方に何らかの反応があってもおかしくない筈である。真相は藪の中と言った所かもしれない。
志真が転校してから、出来た初めての友人が北代くんである。花音の彼氏であり、眼鏡をかけていて一見知的なように見えるが、野球部に所属していてスポーツも得意なようである。常に我が道を行くような彼女に振り回されているせいか多少の事には動じないようであり、共に彼女を持つ者同士として志真の相談に乗ってあげたりと好青年な性格をしている。
51~58kcalでは千早さんと志真が両想いになってからの様子を中心に描かれている。共に言葉に出来ないほどの喜びを味わっていて、その様相はとても微笑ましいものを感じる。特に千早さんは53kcalでの、最後の1コマでようやくケーキに手を付け始めるといった愛情が食欲を越えた瞬間が見られる。逆に志真は彼氏になったにも関わらず、絶対的な自信を持ったかと思えば急に自分のやる事に不安を覚えたりと、人は急に変わらないという事を身をもって示してくれている。それでも彼は以前よりは千早さんの気持ちを汲めるようになったりと、成長している部分も見られるようになっている。
岸辺さんは彼女なりに千早さんが志真と付き合う事を喜んでいるが、その一方で彼等をからかう新たなネタが出来たとして今迄よりもヒートアップしたイジりを飛ばしてくる。54kcalと55kcalでは、千早さんに隠れて志真に連絡を取り彼を自分の都合の良い方に誘導していくという、リモートな言葉責めを披露している。彼女が志真に言い放った「男が初デートでやらかしがちなあるあるネタ」は、妙に生々しいリアルさを秘めている。こういう男の漫画家では表現しにくい、女性目線での活きたネタを使えるのは流石と言った所である。
此処迄本編では圧倒的に人をイジり倒す側に居た岸辺さんだったが、59kcal以降それまでの立ち位置が逆転してしまう場面が増えるようになる。彼女が以前よりも累の事を気にするようになり、千早さん達に逆にからかわれるようになってしまったのである。
元々43kcal(第3巻収録)の時点で今回のような兆候が既に現れ始めていた。岸辺さんの普段はあまり見せない女の子らしい部分を褒めたりすると、彼女はそれに慣れていないせいで赤面していた事があった。そして累に対してわざと意地悪をしても、空回りな結果に終わってしまっていた。
累は登場した頃こそ、千早さんのように太っていたけど痩せて高校デビューしたイケメンというキャラだったが、話が進む毎におネエ要素が強くなっていった。度胸は強くないものの女子を相手にするスキル自体は少なくとも志真よりは1枚上手である。それは岸辺さんの前でも発揮され、本人は無自覚でも周りからすれば彼女を篭絡しようとしているように見えてしまっていた。
57kcalや64kcalでは、岸辺さんは累と一緒に居る時自然と女の子らしい部分が出てしまっていた。彼女はそんな無防備な自分を特に男子である累に見せてしまうのが悔しく、一時は彼を避けるような素振りを見せていた。しかし、それでも累が自分を心配してくれたり気を遣ってくれたりと、彼の優しさや気遣いが彼自身のイノセントなものなのだと気付けたようである。
岸辺さんと累の関係がその後どうなるかは本編で最後迄言及されなかったものの、恐らくいずれは彼等も付き合う事になるのではないかと思っている。女子力の高い累と普段は男子のような勢いと度量を持つ岸辺さんは、案外お似合いのカップルになれそうである。
終盤に当たる65~68kcalでは、千早さんの傍にいられなくなったが故の志真の葛藤や彼が如何に自分の為に色々な事をしてくれていたかを思い出す千早さんの心情が描かれている。そして、最後にまた5人が揃いつつ再び2人っきりになった千早さんと志真のやり取りでラストが締めくくられる運びである。
かつては本編の様々な場面で千早さんの為に食べ物を持ってきたりと、彼女が喜びそうな事を分かっていた志真だが、彼女と離れて暮らすうちにその自信が揺らぎ始めていた。志真が千早さんを待っている間、少し前迄は自分も通っていた高校がもう全く繋がりの無い赤の他人だらけの場所のように見えているのは、彼の今の孤独な気持ちを的確に表現しているようである。
千早さんも表には出さないものの、志真が隣に居ない事のさみしさを抱えていた。そして、志真から返信がないのを綾目さんに相談したりしていた。そして、実際に志真が目の前に現れた時の彼女の笑顔はとても眩しいものだった。
綾目さんと言えば、他の4人よりも遅れて登場してレギュラー化したキャラだが、千早さん達と仲良くなったお陰で初登場時よりも明るくなり可愛さも増したようである。また、以前は志真にスマートフォンに打ち込んだ文章で会話しようとしたぐらいの人見知りであったが、千早さんに思わず心の声を漏らしてしまったりと精神的に強くなったのが伺える。
「千早さんはそのままでいい」は話数は他の漫画よりも比較的短めながら、その勢いと面白さは最後迄持続させながらゴール出来たと言っても良いと思っている。序盤では千早さんの痩せたいと言いながらつい食べてしまうという矛盾をコミカルに描きつつ、彼女が食べている場面を可愛らしさとダイナミックな大コマで彩ったラストで毎度締めるという展開がとても良かった。
中盤以降はそれだけでなく千早さんと志真の恋愛模様にシフトさせつつ、基本的に明るめでくどさを感じさせないラブコメに仕上がっていたと思う。実際、千早さんと志真のやり取りはいい意味で甘さ控えめながら、何度も読んでも応援したくなるぐらいに仲の良さや初々しさを感じられた。最後に2人がキスした後に、お互いに悪役の如く高笑いして恥ずかしさを誤魔化そうとするのは、彼等らしさを感じられて良かった部分の1つである。千早さんが最後に食べたものがチョコパイというもの、最終回に相応しいチョイスであると言える。
そして、筆者にとっては初めて出会ったくずしろの漫画作品が本作であったのは、非常に幸運である。この作品がきっかけで「れんあいこわい」や「兄の嫁と暮らしています。」に、「犬神さんと猫山さん」と言ったくずしろワールドにどっぷり浸かるようになってしまったのだ。くずしろの漫画を楽しんでみたいという人に向けて、まずは本作を読んでもらいたいと思う。それで読んでいる最中でも読み終わった後でもいいので、手近にある食べ物を用意するべきである。きっと、お腹が減って何かを食べたくなる筈だから。
初稿:2021年1月8日