Diary. 1 (初出:ヤングガンガン2015年No.24)
岸辺志乃は自身の兄である大志の嫁、希と一緒に暮らしていた。彼の死から半年経ったその日は、志乃の為に作られたある記念日と重なっていた。
Diary. 2 (初出:ヤングガンガン2016年No.1)
志乃は希と共に、翔太朗から借りたゲームをプレイしていた。ゲームの内容はギャルゲーだったものの、2人は思いの外ハマっていく。
Diary. 3 (初出:ヤングガンガン2016年No.2)
球技大会で使うクラスTシャツ代を自分の小遣いから支払った志乃に対し、希は自分をもっと頼って欲しいという思いを巡らせる。
Diary. 4 (初出:ヤングガンガン2016年No.4)
希は授業の段取りが上手くいかず職員室で落ち込んでいた。同僚の諸星は、彼女の不調の原因が義妹との関係に起因している事を見抜く。
Diary. 5 (初出:ヤングガンガン2016年No.5)
球技大会で志乃は急遽、怪我をしたクラスメイトの代わりにバレーの試合に出る。みなとに半ば強引に参加させられる形になった彼女だったが・・・。
Diary. 6 (初出:ヤングガンガン2016年No.6)
テストの成績が芳しくなかった志乃は、英語と数学の解き直す課題に取り組むが思い通りに捗らない。休憩時に志乃は希から彼女の過去の成績を聞き、咄嗟に勉強を教えて欲しいと言ってしまう。すると、希は意気揚々とした様子でテストの解説を始める。
Diary. 7 (初出:ヤングガンガン2016年No.8)
志乃が捨て猫を拾ってきたが、彼女達が住むマンションはペット禁止である。しかし、希は彼女が猫を飼いたがっているのに気付いていた。
Diary. 8 (初出:ヤングガンガン2016年No.9)
新しく飼う事になった猫の為にペット用品を買いに来た志乃と希。ついでにスーパーに寄った2人は其処で、希の教え子の1人とその母親に遭遇する。
Diary. 9 (初出:ヤングガンガン2016年No.10)
猫に懐かれる志乃の様子を写真に撮って面白がる希は、彼女から写真に纏わる岸辺兄妹の昔話を聞く。
Diary. 10 (初出:ヤングガンガン2016年No.12)
いつもと変わらない志乃と希の日常。しかし、2人の心中にはそれぞれ互いに対する複雑な思いが渦巻いていた。
兄の嫁とはみがき
兄の嫁は毒を食らわば皿まで
兄の嫁と同僚
兄の嫁と料理
兄の嫁と暮らしていると
兄の嫁と壁ドン。
単行本1巻の描き下ろしショートである。
2020年12月18日現在、第8巻迄刊行されている「兄の嫁と暮らしています。」は、くずしろの代表作の1つである。今回紹介する第1巻では、本作の主人公である志乃と希が共に暮らしている日常を中心に描かれている。
現時点での本作の印象について、当ブログでも既に取り上げている「千早さんはそのままでいい」と比較しながら書いていきたいと思う。
まず、本作と「千早さん」を並べた時、取っつきやすさは後者の方が勝っている。「千早さん」は作品のテーマが明瞭でありストーリーもサクサク進む。兎に角、全体的に明るめでラブコメに徹しているのが特徴的である。
対して「兄の嫁と暮らしています。」は、寧ろスローテンポで基本的には明るめなのだが、たまに影が差し込んでいるような不思議な雰囲気に満ちている。読めば読むほど味わい深くなるような、独特な魅力を持っているのが本作である。
志乃と希は一緒に暮らしてはいるものの、その関係性は少し特殊である。血の繋がりは一切無く互いに共通しているのは、共に亡くしてしまった大事な人が同じだったという事。その人、大志は両親を失くしていた志乃にとって唯一の肉親で兄だった。また、希にとっては愛してやまない恋人であり、一生を共にする筈の夫だった。
少なくとも今巻において、何か明確な解決すべき課題が提示されている訳ではない。実際の所、志乃と希は表面的には上手くいっているように見える。だが、エピソードの端々で彼女達の思いはすれ違ったり、普段言葉にはしない本心のようなものを抱えているのが伺える。それらはいずれ彼女達の関係に何らかの変化を及ぼすトリガーとなり得るかもしれない。
この作品で登場する岸辺志乃については、以前別の記事で軽く触れている。
岸辺さんと言えば、「兄の嫁と暮らしています。」という作品にも、同じ容姿を持つ女の子が登場する。但しそちらに登場する岸辺さんはあくまで「岸辺志乃」であり、本作の「岸辺いちご」とは別人である。
食べると可愛いは、両立出来るんです!!!「千早さんはそのままでいい」読んでみた!!!-或訓練された信者の一生より引用
彼女はある程度の社交性は持っているが、基本的に自分の気持ちを素直に出すタイプではない。みなとや翔太郎など仲の良い友人には気を許しているが、殊に亡くなった大志に関する事は相手が希である場合を除いて、必要以上に自分から話さないようにしている節がある。表面上はクールに徹しているものの、元来は優しい性格で時には10代の女の子らしい一面を覗かせることもある。
志乃にとって希は家族同然のような存在であり、大志との思い出を共有出来るかけがえのない存在である。だが、それとは別に自分が彼女の自由を奪い束縛しているのではないかと、自らがまだ大人として自立出来ていない現状を憂いている様子が見受けられる。ちなみに「千早さん」に登場する「岸辺いちご」と違い、あまり勉強は得意ではない。
希は大志と高校時代から付き合っていたらしく、その頃から志乃とも面識はあったようである。自身が小学校の教師をしている事もあり、志乃に対しては立派で頼れる義姉として振舞おうとしている。その為に彼女が自分に迷惑をかけまいとしている所を見ると、寂しさを感じるようである。
また、大志の死に関してまだ心の整理がついていないのか、自分が志乃と暮らしているのは一種の現実逃避であると自嘲気味な部分を隠し持っている。周囲からは真面目で優等生気質と評されている一方で、過去の大志との惚気話をうっかり喋ってしまう等、やや天然で気の抜けた可愛らしい部分も持っている。これは余談だが「千早さん」の45kcal(単行本第3巻に収録)において、希と瓜二つの小学校教師が登場している。
大切な人を失った悲しみを分かち合うように、一緒に暮らす志乃と希。2人の関係とその未来は何処へ向かうのか、残された生者達による物語はまだ続こうとしていた。