18kcal 「あふれちゃうぅぅ‼」(初出:ジャンプSQ. 2016年1月号)
新学期、体育の授業でカロリーを消費した千早さんだったが、放課後によりカロリー高めの牛丼を食べてしまう。
特別編① 「一キレくらいでかわらん」(初出:ヤングジャンプ2016年24号)
筆者都合により割愛。
特別編② 「フローラルな香りをさせながら」(初出:ヤングジャンプ2016年24号)
筆者都合により割愛。
19kcal 「はいっ あーん」(初出:ジャンプSQ. 2016年2月号)
千早さん達は体育祭の準備に勤しんでいた。しかし、その最中でも岸辺さんのからかいが彼女に襲いかかる。
20kcal 「でも ちょっと着替えていい?」(初出:ジャンプSQ. 2016年2月号)
千早さんが風邪を引いて学校を休んだ。志真は彼女の家にお見舞いに行くが・・・。
21kcal 「そういう競技じゃねェから」(初出:ジャンプSQ. 2016年3月号)
無事、体育祭を迎える事が出来た千早さんだが、度重なるアクシデントに襲われてしまう。
22kcal 「もうたべていい・・・?」(初出:ジャンプSQ. 2016年3月号)
岸辺さんの策略により、保健室で志真は千早さんを介抱する事になる。
23kcal 「ほっぺにクリームついてるよ」(初出:ジャンプSQ. 2016年4月号)
公園で志真の妹である真知を見つけた千早さんは、彼女と一緒にケーキを作る。
24kcal 「それが礼儀ってものではないでしょうか」(初出:ジャンプSQ. 2016年4月号)
千早さんと真知、其処に岸辺さんも混ざりお好み焼きを囲ったガールズトークが始まる。
25kcal 「大体ハズレないからなぁ」(初出:ジャンプSQ. 2016年5月号)
千早さんは志真が考案した炒飯と麻婆豆腐の混ぜ料理を、彼と一緒に堪能する。
26kcal 「噛むと音出るから」(初出:ジャンプSQ. 2016年5月号)
制服の衣替えを機に再びダイエットを決意した千早さんは、間食を防ぐ為に岸辺さんを避けようとする。
27kcal 「ヘルシーなやつばっかあげてない?」(初出:ジャンプSQ. 2016年6月号)
写生大会で1人黙々と絵を描いていた綾目さんだが、千早さん達に自身の絵の上手さを感心された上に、一緒にお昼ご飯を食べる流れになってしまう。
28kcal 「日本の損失や・・・」(初出:ジャンプSQ. 2016年6月号)
買い物帰りの千早さんは、偶然出会った志真兄妹と一緒に閉店間近の団子屋を訪れる。
29kcal 「これ・・・人が食べて大丈夫なやつなの・・・」(初出:ジャンプSQ. 2016年7月号)
委員会で帰りが遅くなった累は、道中で岸辺さんと出会う。彼はインドカレー屋での夕食を望んだが岸辺さんの強引な説得により、ラーメン屋に連れていかれてしまい・・・。
30kcal 「好きだからじゃない?」(初出:ジャンプSQ. 2016年7月号)
前回の約束通り、岸辺さんが持ってきた羊羹を共に食べる千早さんだが、珍しく彼女のマイペースっぷりに呆れて・・・。
31kcal 「やっば 今 時間とまった」(初出:ジャンプSQ. 2016年8月号)
実家の食堂の手伝いをしていた志真は、千早さんのようで千早さんじゃない客に出くわす。
32kcal 「そのままでいいわけないじゃんね・・・」(初出:ジャンプSQ. 2016年8月号)
志真は店に来た謎のお姉さんの事を嬉々として千早さん達に話す。しかし、その時の千早さんの反応を彼は察する事が出来なかった結果・・・。
32kcalその後
単行本2巻の描き下ろしである。
「千早さんはそのままでいい」も2巻目を迎え、主要人物が揃い踏みし作品のフォーマットも洗練されてきた。今回も本作の感想を綴りたいと思う。
第2巻から岸辺さんが本編を盛り上げるのに、一役買っているのがよく分かる。彼女は第1巻から登場しているが、今巻でその立ち位置を確立したようである。
岸辺さんは千早さんと双璧をなしておりながら、彼女とはあらゆる点で対照的なヒロインである。小柄で優美な細身の体型や可愛らしいショートボブを併せ持つ彼女は、今時の女子高生として抜群に映える容姿を持っている。また、成績優秀且つ男子に勝るとも劣らない勝気で物怖じしない彼女の性格には、同性にすら羨望の眼差しを向けられているのである。
そんな岸辺さんは千早さんと志真、時には累すらも自らのペースに引き込み友情溢れんばかりの言葉責めを駆使して、彼等を面白おかしく引っ掻き回してくれる。特に29kcalと30kcalは、累と千早さんのそれぞれが彼女の手玉に取られて話が進んでいるようなものである。
更に30kcalでは、岸辺さんにとっての千早さんに対する親しみの込もったおちょくりが描かれている。千早さんを組み敷いて主導権を握る岸辺さんの構図の描き方は、ちょっと妖しげな雰囲気が出ていてくずしろらしい。若干屈折したものを匂わせつつも、千早さんの事を親友として大事にしている彼女らしい一場面である。
今回、筆者が選ぶ印象的な千早さんの食事シーンは、22kcalと27kcalである。前者に関してはあんパンにかぶりつくデフォルメ調の千早さんの姿と、同じく牛乳を一息に流し込む彼女の豪快な飲みっぷりが、絵面として良かったと思っている。後者では、半分こになったミートボールを互いに食べさせ合う千早さんと綾目さん達が、半ば耽美的に描かれている。そして、そんな彼女等の様子を何とも言えない面持ちで眺めている、志真達でオチをつけているのが非常に面白かった。
23kcalにおいて志真の妹である真知が初登場しているが、その姿は「兄の嫁と暮らしています。」に出てくる小泉梨奈と瓜二つである。本作における岸辺さんのように、くずしろは自作品において手塚治虫が使った「スター・システム」を採用しているのが窺える。
さて、手塚マンガにおける「スター・システム」はと言うと、ハリウッド映画の場合とはちょっと違って、マンガの登場人物をさながら映画俳優のように扱う、ということです。つまりひとりの役者がいろいろな役を演じるように、ひとつのキャラクターがいろいろな役に扮してマンガを演じている、ということです。
スターシステムってなあに?-手塚治虫 TEZUKA OSAMU OFFICIALより引用
実は本作の第2巻には特筆すべき事がある。本巻に収録されている特別編①~②は、ヤングジャンプ2016年24号における出張連載で掲載された話である。
そのうちの特別編①にはあるサプライズが仕掛けられていた。それは、月刊ComicREXでくずしろが連載していた「れんあいこわい」の登場人物、堂本悠と蓮見安奈が友情出演しているのである。こちらの作品は既に連載終了しているが、全2巻ながら濃い面子が揃っていて面白いので是非読んで貰いたいと思う。
そして、これまで仲の良い幼馴染として過ごしてきた志真と千早さんだが、32kcalを境に2人の関係も少しずつ変化を見せ始める。
これまで度々指摘されていた志真の女子に対するデリカシーの無さが、遂に千早さんの逆鱗に触れてしまう。それは岸辺さんにも釘を刺されてしまう程の失態だった。一方で千早さんも、嬉々として自分の知らない女性の話をする彼に対して、言葉にならない嫉妬めいたものを感じていた。
悶々とする千早さんの頭上から落ちてきたのは1個のチョコパイだが、その袋には志真からのメッセージが添えられていた。彼は何時もの手渡しではなく、敢えて自分の気持ちを文章として添えて間接的に彼女に渡したのである。それは千早さんのポケットの中に大事そうにしまわれていた。
良くも悪くも幼馴染という関係に胡坐をかいていた志真は、これから千早さんに対してどう向き合っていくのか。「そのままでいい」という言葉に千早さんは何を思うのか。その答えはチョコパイだけが知っている。
初稿:2020年7月22日