今回は、こころルートの8~14の感想について纏めたい。
こころ 8
誠とほたるの逢瀬、そしてあずきさんが入院してしまう回。ほたるが誠に語った「愚痴」は本編を一回クリアする事で、より理解しやすくなる。
こころ 9
誠はこころと共に、あずきさんと少しでも長く一緒に居ようとする。しかし、彼の体調も何故か悪化していた。
こころ 10
誠は響子との会話の中で、言霊の本質に気付きそれであずきさんを救おうとする。
こころ 11
誠はあずきさんの命を救い、自らもギリギリながら生き長らえる。遂に「家族」に笑顔が戻ったのである。誠とこころとあずきさん、3人が一緒に抱き合うイベントCGは感動的であり「家族」としての素敵な在り方が描かれていると感じた。それからのOPの挿入はまさに物語の壮大な始まりをよく演出していて圧巻だった。
こころ 12(ルート分岐回)
誠が居るクラスに転校してきたのは、なんと恋塚愛である。深夜の病院で、ほたるが会っていた「誰か」の正体を、まだ知ることは出来ない。
こころ 13
愛も加えて、3兄妹として生活する誠達である。どのルートでも、愛は漫画にはまる性質らしい。ちなみにこの回で彼等が読んでいる少女漫画は、背表紙のそれが白泉社の少女漫画レーベル、花とゆめコミックスをモデルにしているようである。
こころ 14
「兄妹」でありながら恋愛もしている誠とこころに、茶々を入れてくる愛。だが、誠自身も今の関係に区切りをつけなければいけない事を分かっていて・・・。中庭でお昼ご飯を食べる場面があるが、画面に5人分の立ち絵はきつかったのか、こころ以外は吹き出しの中にいて結構カオスな状態である。
「こころ 8~11」迄、なかなか休まる暇もない展開であったと思う。逆にこころ12~14は一転して、コミカルで賑やかな雰囲気である。
あずきさんがもうすぐ死ぬ、それは誠にとって外の世界で初めて遭遇する「困難」である。言霊でどうにかなるだろうと常々思ってていた誠にとって、簡単に対処出来ないことに直面した瞬間である。あずきさんに本当の事を打ち明けられた時の、誠の反応には凄まじいものがあった。その思いは言霊として発現してしまうほどに、溢れていたのである。そして、あずきさんが誠に伝える言葉の一言一句が、まさに母が実の息子に言うそれである事が、彼に追い打ちをかけた。どうしても自分が本当の息子ではないと言えない悔しさを、ただ目の前に横たわる事実にどうしようもないやるせなさを、誠は感じていたのだろう。
今迄抱いた事のない鬱屈した思いが、言霊になってしまう誠だったがそんな彼に、ほたるという存在が居たのは幸運である。「自分なら言霊を受け止められる、だから全部出して欲しい」、誠の言葉を「言葉」として受け入れられる、ほたるだから出来る事。だから、誠はほたるとの約束を改めて反芻出来たのである。普段の言動こそ人を喰ったようなおちゃらけたものだが、こういう時に静かに人を奮い立たせるほたるは大した女である。
大した女と言えば、もう一人忘れてはならない人が居る。「こころ 9」で、言霊が解除されていたにも関わらず、誠を家族として受け入れた、あずきさんである。こころよりも先に言霊が切れていたあずきさんだったが、彼女は誠を許しそのうえで、改めて自分の息子として迎え入れた。言霊が切れていると分かった時の、誠はかなり動揺していたのだろう。織部家の2人に言霊をかけた直後の彼なら、ここまで気持ちが揺れることは無かった筈である。誠の「外で暮らしたい」という願いが本物であると見抜き、受け入れるあずきさんの器の大きさに、只々脱帽するのみである。あずきさんに頭を優しく撫でられた直後、誠が放った言霊は暖かく純粋な願いのように筆者には聞こえた。
こころは、周りの人を暖かく和ませることが出来る女の子だと言える。そんな彼女には、確かに笑顔でいてほしいし悲しい思いをさせたくないと、思わせられてしまう。だから誠とあずきさんは、彼女に嘘をついた。「もうすぐ死ぬ」という残酷な現実を、「こころには笑顔でいてほしい」という思いからくる、「優しい」嘘で覆い隠そうとしたのである。しかし、こころはあずきさんの嘘に気付いていた。本当のことを告げるべきか迷う誠だが、結局こころに真実を告げたのである。言霊で誤魔化すことだって出来た筈だが、誠はそれをしなかった。あずきさんとの約束を破ってしまうことよりも、こころの気持ちを尊重出来ないことの方が兄として、彼女を愛する1人の男として許せなかったのだろう。もし、誠が彼女の「実の兄」だったら、寧ろ最後迄嘘を貫き通していたかもしれない。
今迄は何とか耐えてきた誠とこころだったが、「こころ 10」でついに一線を越えてしまう。その時、誠はあずきさんを救う為とはいえ、自らが死ぬということに何処か不安めいた気持ちを抱えていた。一方でこころもまた、あずきさんが死んでしまうことへの不安を募らせていた。失うことの不安が、人の温もりを求める欲求へと繋がったのだろう。言霊が思わぬ引き金になってしまったとはいえ、2人は互いを求めあったのである。そんな2人を一体誰が責められるだろうか。
誠は言霊を使い、あずきさんに自らの命を分け与えることで、彼女を救う。言霊の本質は、発する言葉に自らの魂を乗せること。それは、誠自身もかつて同じ事を実の母親からされていた。「生きなさい」、母が発したその言霊が今日まで誠を生かしていたのである。だが真実を知っても誠は己を馬鹿だとは思わなかった。母から貰った命を母に返しただけ、誠にとってはそれだけで充分だったのである。そんな誠に愛は問い掛ける、「あなたは里を出て何を見つけられたのか」。誠は愛に向かって改めて笑いかける。それが答えそのものだった。
このルートではメインではないものの、恋塚愛も物語を盛り上げるのに一役買っていると言えるだろう。「こころ 9」以降、自室で眠っている誠に語りかけたり、湖で死に瀕している彼に真実を思い出させる等、具体的な活躍を見せている。「こころ 12」以降では、かつての誠の行動をトレースするように、織部家の一員となり、誠と同じクラスに入っている。そんな彼女は、今の誠とこころの関係についてどちらかいうと否定的な立場を取っており、時にからかいながらも2人に揺さぶりをかけていく。
あずきさんの命を救い、平和な生活に戻れると思った矢先に現れた愛。彼女のお陰で誠は、こころとの関係に1つの区切りをつける必要に駆られる。だが、これまでの偽りの兄妹関係を簡単に終わらせる事も出来なかったのである。誠とこころは、この先は2人は何処へ向かっていくのだろうか。
初稿:2018年5月5日
第2稿:2019年2月17日