今回は、アマツツミのこころルート1~7の感想を書いていく。ちなみに、アマツツミは全てのルートに通し番号がふられていて、こころルートは本編と派生を合わせて、20のチャプターで構成されている。
第一話 織部こころ -絆- 穏やかな時間
こころ 1
誠が喫茶店「折り紙」に住む事になった成り行きや、誠が里を飛び出す直前の回想が中心となっている。
誠がこころに顔を踏まれるという印象的な場面や、序盤ながら誠と愛が抱き合う場面が入ってきたりなど、間髪入れずにユーザーを惹きつける構成となっている。
こころ 2
ほたるの初登場回であり、誠の「折り紙」での初バイトの模様が描かれている。また、響子もほんの少しだが顔見せ程度に登場している。ほたるは劇中で言霊が効かない唯一の人間として、その存在感を露わにする。
こころ 3
誠が言霊でこころとあずきさんの「家族」になり、同時にほたるという「協力者」が出来る回であり、此処から本格的に物語が動き始める。
こころ 4
前半は誠の記念すべき学園生活の初日の様子が、後半は誠と響子が友人になる過程が描かれている。誠と一緒に登校するこころは本当に楽しそうであり、既に兄妹というよりカップルの様相を呈している。その様子に半ば呆れるほたるに筆者も共感を抱かざるを得ない。また、誠でさえも授業を受ける苦痛さは我々とさほど変わらないようである。そして、彼の齢約17歳にしてサンタを信じる純真さと、女日照りを響子で解消しようと考える俗物さ、相反する精神性を持っているのが面白い。
こころ 5
少しずつ外の世界にも慣れ始めた誠だが、ここで新たな問題が発生する。それは、こころが誠と「兄妹」であることを認識した上で、彼にキスをしてきたのである。
こころ 6
誠もこころも昨夜のキスが尾を引いてしまい、学園生活に影響を与えていた。更に一度キスをしてしまったせいで、その頻度が増えてしまう程に2人の距離が近づいていく。その一方で、あずきさんの体調が良くない事を、誠は知る。
こころ 7
前日での出来事をほたるに相談する誠。「自由」か「家族」か、しかしその答えを既に彼は選んでいた。そして、あずきさんは店を途中で閉めるほどに体調が悪くなっていて・・・。
「外の世界を知りたい」という思いを常々抱いていた誠。「こころ 1」で誠と愛がまぐわう様子が描かれるが、それが誠が里を飛び出すことを決心させるきっかけになる。
そのまぐわいはいつものそれとは少し違う意味を帯びていて、「里に飛び出すことを考えている誠を止めたい、自分と一緒にいて欲しい」と願う愛の切ない想いが隠れていたのだろう。だが彼は、そんな愛の健気な願いに気付きながらも、だからこそ里を飛び出す決意を固める。そんなことを愛にさせてしまった自分に、今まで抱えていた自らの気持ち対して決断出来なかった己を、許せなかったからである。
自らを好いてくれる人を置いて飛び出す、というのは身勝手なものかもしれない。しかし、時に人はどうしても、全てを捨てて迄叶えたい願いを持ってしまう事もあるのだろう。其処に、正しいとか間違っているとか、一言では片付けられない熱いものが含まれているなら尚更である。
「こころ 2」で、誠とこころが携帯電話の試用をして楽しんでいる時。通りすがりの若い男の、こころにぶつかっても謝らないその態度に怒った誠が、その男に言霊を使う場面がある。誠が怒る気持ちも理解は出来るが、彼が躊躇せずに簡単に言霊を使用するところは少し恐怖を覚えた。外の世界に来て間もない手前、本来ならもっと言霊を使う時や場所を選んでもおかしくはないのだが、誠はそこまで気にしていないようである。其処にまだ、誠が自分は言霊使いで何とでもなるというような慢心と、無計画に言霊を使ってしまう危なっかしさが見え隠れしていると、筆者は思わずにはいられない。
誠は基本的に優しいし、悪い人間ではない。しかし、言霊という力を持っているが故に、良くも悪くも「躊躇」が無いのも事実である。そして、誠はほたるから、言霊の怖さやそれを使う彼の精神の未熟さを諭される。「皆の幸せを守る」、ほたるによって新たに示された言霊の奮い方。それは少しずつ誠の中で重みを増していく。
織部こころ、誠が外の世界で出会った初めての女の子。裏表がなく素直で、誰とでも仲良くなれる、唯ちょっとメルヘンで夢見がちではあるが、可愛くて善い女の子である。誠と話している時の楽しげな雰囲気や、動揺したり驚いた時の声など、秋野花による演技が随所に光っていると言えるだろう。誠と兄妹になるという言霊をかけられながらも、それすら燃料にしてしまう程に恋に落ちているところは、とても可愛らしいと思う。誠を介抱し、家に連れてきたことで彼女の人生は大きく変わっていく。
こころの母親であるあずきさんも、こころほどでは無いにしろ、変わっているが善い人間である。こころ以上に客観的に人を観る眼を持っていて、だからこそ誠の事も受け入れたのだろう。その包容力の高さは、まさに母親たる所以のものである。
こころとあずきさんを自分の家族にした事で、誠は今迄感じた事のない感情を覚え始める。母親への思慕、夜に自分以外の誰かと居る事の暖かさ、そして兄としてのそれを上回る妹への愛情等である。突然覚え始めた言葉にする事の難しいそれらに、戸惑いながらも受け入れようとする誠。しかし、時にそれらが自らを苦しめるものにもなるのを、彼はまだ知らないのである。
新しい我が家と学園生活を手に入れた誠だが、楽しいことだけでなく、辛く苦しいことにもこれから出会っていく。それらが彼にどんな影響を及ぼすのだろう、そして、彼は最後に「何色」になるのだろうか、「御伽噺」はまだ始まったばかりである。
初稿:2018年4月28日
第2稿:2019年2月3日