2018年10月27日、大手PCゲームブランド「ゆずソフト」の代表であるろど氏が、以下の内容のツイートをした。
このツイートは、筆者を大いに興奮させた。何故なら、以前からエロゲのビジュアルファンブック(以下VFB)の電子書籍化の普及を望んでいたからである。実生活でも電子書籍を愛用している筆者にとって、ろど氏が上記のようなツイートをすることはとても衝撃的である。実際この記事の文章を書いている今でも、若干興奮で手の震えが止まらないくらいである。
筆者としてはエロゲのVFBに電子書籍化に賛成であり、ゆずソフトに限らず色んなPCゲームブランドでVFBの電子書籍版を出して欲しいと考えている。では、VFBの電子書籍化はエロゲユーザーにどのようなメリットがあるのだろうか。ここでは一般の電子書籍のメリットというより、エロゲのVFBを実際に電子書籍化した際のメリットに絞って紹介したい。
まず、エロゲのVFBの扱いが非常に楽になるという事である。VFBに限らず画集や写真集でもそうだが、これらのような大型本は管理するのに気を遣う。とにかくサイズが大きし嵩張るので、きちんと収納するにはどうしても本棚が必要になる。しかも、大型本は普通の本とは違い綺麗に保存する事が難しい。何故ならそのサイズの大きさ故に、一般の書籍にようにブックカバーを付ける訳にはいかないからである。人によっては綺麗な状態を維持する為に素手で触る機会を意図的に減らしている人も居るかもしれない。
しかし、電子書籍化したVFBならそれらの心配を払拭する事が出来る。データなので物理的保管スペースを気にする必要はないし、汚れや劣化を気にする必要はないのでじっくりVFBの内容を楽しむ事が出来るからである。
また、エロゲのVFBを適正価格で買うことが出来るというメリットは、エロゲユーザーにとってもPCゲームブランドにとってもメリットが大きい。エロゲのVFBは一般の書籍と違い流通量が非常に少なく再販しないので、定価で買うにはほぼ発売直後の機会しかない。特にゆずソフトなどの大手PCゲームブランドの歴代VFBは中古ですら1万以上の高値で扱われるので、新規ユーザーであればあるほど買う事が難しくなるのである。もし中古で買えたとしても、その利益をより得られるのはPCゲームブランドより寧ろ転売屋の方である。
だが、VFBの電子書籍が販売されれば値段の無駄に吊り上がった中古を買わなくても、何時でも定価で買う事が出来る。しかも、新規ユーザーも中古に頼らずとも気兼ねなく買えるのである。タイミングによっては割引された時に買う事だって可能である。
此処迄VFBの電子書籍化のメリットを簡単に説明したが、実は既にVFBが電子書籍化されているエロゲが存在している。SAGA PLANETSの「花咲ワークスプリング!」や、まどそふとの「ワガママハイスペック」などである。筆者も電子書籍サイトの「BookLive」で購入済みである。
しかし現状では、まだまだ電子書籍化されていないVFBも多い。例えば、筆者が今挙げたVFBたちはいずれも、大手出版社KADOKAWAの美少女ゲーム情報誌「テックジャイアン」のレーベルから出されているが、未だにその一部しか電子書籍化されていないというのが現状である。
そして、大手PCゲームブランドが出しているVFBには前述のそれらとは違い、既存の出版社を通さずに制作や出版をしているものも多い。そういう意味では、同人誌とほぼ同じ立ち位置かもしれない。
同人誌の特徴ですが、自費出版との大きな違いは、出版社に依頼をしないところです。
このような同人誌タイプのVFBを出しているPCゲームブランドは主に、ゆずソフトやPurple softwareにクロシェットなどである(活動履歴の長いブランドによっては、出版社からVFBが出されている作品も存在している場合もある)。
そして今回、ゆずソフトの代表であるろど氏が件のツイートをした事で、愈々エロゲのVFBの電子書籍化が本格的に加速する事になるのではないか、と筆者は予測している。何故なら、エロゲ業界初の同人誌タイプのVFBの電子書籍化が実現すれば、これまでよりもVFBの電子書籍化のハードルが格段に低くなるからである。その前例を大手の中でも強力な実績を持つゆずソフトが作ったとなれば、他のブランドも無視は出来ない筈である。
但し、ゆずソフトが本格的に自社のVFBを電子書籍化するとしても、そう簡単には出来ない事もまた事実である。例えば、電子書籍化するとして一体何処の電子書籍ストアで配信するのか、という問題がある。AmazonやBookLiveなどの大手電子書籍ストアで配信するのか、それともアダルトコンテンツの扱いに定評のあるFANZA(旧DMM.R18)で配信するのか、はたまたとらのあなやメロンブックスなどの同人誌の電子書籍配信サイトで配信するのか。この段階で既に選択肢がいくつも分かれているのである。
更にどのストアで扱われるにしても、そのストア限定で独占配信される可能性も否定出来ない。特にFANZA(旧DMM.R18)で扱われるとなると、その可能性は一段と高まるだろう。何故ならいくつものエロゲを独占配信しているからである。複数のストアで買う事が出来ない場合、ユーザーにとっては幾分不便を強いられることになるかもしれない。
上記の問題以外にも作り手側ならではの問題など様々あるだろうが、筆者としてはやはりゆずソフトには大きな期待を寄せていることに変わりはない。
最早、ゆずソフトの名を知らないエロゲユーザーはいないだろう。それくらいの知名度と実績を作り上げてきたゆずソフトなら、VFBの電子書籍化にもなんらかの成果を出す事が出来ると筆者は信じている。もし、実現した場合、今迄紙のVFBに慣れてきたユーザーから反発の声が挙がる可能性も充分あるだろう。だが、考えてみてもほしい。果たして今迄と同じようなことをなぞってきたPCゲームブランドが、この先を生き残ることが出来るだろうか。いや、出来ない筈である。筆者はゆずソフトが業界の中で生き残ってきた理由が、そこにあると思っている。寧ろ筆者より、今迄ゆずソフトの作品に数多く触れてきたユーザーの方が、それを何より体感している筈である。
ゆずソフトの作品のみならずエロゲのVFBの電子書籍化がいつ実現するのか、そもそも実現自体が達成されるのか筆者には分からない。しかし、筆者は信じている。その展望を達成するのに最も近い場所に居るのは、やはりゆずソフトだと言うことを。そして、これらの積み重ねが近い将来訪れるかもしれない日本の電子書籍の本格的な普及の礎となる事を。
(追記)
2019年2月8日、ゆずソフトの公式ブログから以下の声明が発表された。
それと本つながりで、時期は未定ですが、売り切れてしまった過去タイトルのビジュアルファンブックの電子書籍化計画を現在進めています。RIDDLE JOKER ドラマCD・カコ☆タマ画集 本日発売!-ゆずログより引用
古いタイトルはデータ的になかなか難しいかもしれないのですが、近いタイトルのものから準備を進めていますので、こちらも決まりましたらまたTwitterやWEB等で告知いたしますのでよろしくお願いいたします。
いずれこの施策が現実のものとなれば、現在そしてこれからのゆずソフトの新規ユーザーも対等にVFBを、正規の値段で買う事が出来るようになるだろう。そして、現在中古市場に流れているゆずソフトの過去作VFBも値崩れする可能性は、充分ある。
筆者の予想よりも早く、ゆずソフトからこのような声明が出たのは、とても嬉しい限りである。勿論、電子書籍版のゆずソフトVFBが出たら筆者は買うし、実際にどのような感じになっているのか、当ブログでも取り上げる所存である。今は昂る心を抑えて、その時を待つのみである。
(再追記)
2019年3月8日、予想以上の速さで電子版が刊行されたようである。筆者の予想通り、とらのあなやメロンブックスにFANZA等でダウンロードする事が出来るようである。筆者もこれらをダウンロードし、その出来栄えや紙版との違いがあるのか、検証した記事を挙げるつもりである。個人的には「DRACU-RIOT!」も一緒に出して欲しかったが、今後の続報に期待しよう。
一先ず、無事にゆずソフトがVFBの電子版を無事刊行出来た事を祝いたい。そして、他のPCゲームブランドがどう追随するのか、その動きにも注目する必要があるだろう。この流れがエロゲや電子書籍の産業活性化の小さく大きな一歩となる事を期待したい。
初稿:2018年10月28日
第2稿:2019年2月9日
第3稿:2019年3月8日