引き続き、大正処女御伽話の感想を綴っていく。
第九話「兄ト妹」(初出:ジャンプSQ. 2016年1月号)
珠彦が「ユヅを幸せにしたい」と思うようになる一方、珠子も突然「医者になる」と言い出した。珠子が東京に帰る前日の夜、珠彦は彼女と改めて1対1で話そうとする。
第十話「九月一日」(初出:ジャンプSQ. 2016年1月号)
その日は珠彦の誕生日であり、彼は生まれて初めてのお祝いをユヅから受けた。更に彼女から「桔梗の押し花のしおり」を贈られ、思わず感極まる珠彦。いい雰囲気となった2人だったが、そこに珠彦の部屋から物音が聞こえてきて・・・。
第十一話「悪イ娘」(初出:ジャンプSQ. 2016年2月号)
珠彦の部屋に侵入してきた女、綾は珠彦を散々からかった上に財布とユヅからの栞を奪って逃げてしまう。翌日、珠彦は綾に家に行き栞を返して貰おうとするが失敗してしまい、今度は綾が珠彦の家に訪れて・・・。
第十二話「変ワラヌ愛」(初出:ジャンプSQ. 2016年3月号)
栞がユヅによって破られてしまった上に、彼女の気持ちが分からなくなってしまった珠彦。どうすればいいのか迷う彼の元に、珠子から電話がくる。そして、彼は、ユヅがしおりに込めた想いを知る。
第十三話「十二月三十一日」(初出:ジャンプSQ. 2016年3月号)
大晦日、ユヅが15歳になり自分と結婚可能であると聞かされた珠彦は、自分の本当の気持ちを言葉の代わりに接吻で伝える。
第十四話「珠彦先生」(初出:ジャンプSQ. 2016年4月号)
以前、珠彦に勉強を教わった綾の弟達が、友達も連れてやってきた。再び子供達に勉強を教える運びとなってしまった彼だが、まんざらでもないのをユヅに気付かれてしまう。そこに綾も現れて・・・。
第十五話「朋アリ遠方ヨリ手紙来ル」(初出:ジャンプSQ. 2016年5月号)
ユヅとの将来の為に、珠彦は再び学校へ通いたい旨を父に手紙で送る。一方、ユヅは親友の美鳥から妊娠による結婚と九州行きの報せを受け取る。
第十六話「美鳥ト夕月」(初出:ジャンプSQ. 2016年5月号)
珠彦の後押しもあり、東京で美鳥との再会を楽しむユヅ。その頃、珠彦は綾とその弟達と過ごしており、ユヅが帰ってくるのを心待ちにしていたが、その時・・・。
特別編「春ノ夜 星ノ界」(初出:ヤングジャンプ2016年20号)
時系列としては、第五話から第六話の間に当たる話である。
久しぶりに読み直してみると、改めて大正処女御伽話は面白いなと思う。最初に読んだ頃と比べて新鮮味が減っているかと思ったが、そんな事は全く無かった。素晴らしい作品とは、得てして時間が経とうと色褪せないものである。
珠彦とユヅ、2人の周りにも少しずつ人が増え始めた。珠子に始まり今度は綾と綾太郎達も加わることになるのである。
「ユズを幸せにしたい」と考えるようになった珠彦だが、残念ながら人はそう簡単には変わらない。綾の登場により、珠彦は己の力不足を更に痛感する事になる。更に、彼が栞を綾に盗まれたことをユヅに教えなかったことが、裏目に出てしまったのである。自身のみで解決したいという気持ちが先行してしまったのは、若さ故かもしれない。
一方で、村の子供達に勉強を教えたりと、珠彦が彼等に慕われるようになっていた。特に綾太郎には、彼の個人的な悩みも解消してあげたりして、「先生」として尊敬されるようにまでになった。1歩の歩みは小さくとも、珠彦は前に進んでいくようである。
第十六話の終わりで起きてしまった関東大震災。ユヅは無事なのか、珠彦はどうするのか、彼の覚悟が問われている。
追記
当時、ヤングジャンプへの出張連載として載った「春ノ夜 星ノ界」は、番外編という枠を超えた本誌連載に比肩する話である。「星ノ界」は後の本編にも登場しており、珠彦にとって幼少の頃の数少ない思い出を象徴した歌である。本編の要素を濃縮した1話として、初読の人にも分かりやすい構成になっている。
単行本2巻には、目次には未掲載の「珠子の日記」という小品も収録されている。珠彦に褒められて照れる様が見られる、珠子好きにたまらない描き下ろしである。
初稿:2020年2月13日
第2稿:2020年7月3日