厭世家はもう追いかけない、己を1人にした世界を。大正処女御伽話を読んでみた!!!

第三十一話「御伽話ハ幕」(初出:ジャンプSQ. 2017年5月号)
ユヅが珠彦の元からいなくなった・・・。珠彦の家を訪れた綾から、珠彦はその理由を知る。珠樹の葬式の日、ユヅの元に訪れたのは姉の珠代だった。事情を知った珠彦は東京に向かう。

第三十二話「厭世家ハ二度死ヌ」(初出:ジャンプSQ. 2017年6月号)
珠央の案内で、珠彦はユヅの居る場所にやってくるが、ユヅは彼に会おうとしない。そんな彼女に対して、珠彦は「彼女にとっての本当の幸せ」を問う。

第三十三話「親子ハ一世」(初出:ジャンプSQ. 2017年7月号)
父親の珠義が帰ってきた。珠彦は自らの父親と最後の対峙をする。

第三十四話「東北行キ鉄道ノ夜」(初出:ジャンプSQ. 2017年8月号)
志摩の家を出た珠彦は、ユヅを伴い彼女の故郷である岩手に向かう。

第三十五話「母ト娘」(初出:ジャンプSQ. 2017年8月号)
珠彦はユヅの両親に直談判すること、それはユヅと結婚して彼女の姓を名乗る許可を貰うことだった。

第三十六話「花月夜」(初出:ジャンプSQ. 2017年9月号)
ユヅが珠彦の寝床にやってきた。ユヅの想いを知った珠彦は、遂に・・・。

第三十七話「綾ナス未来」(初出:ジャンプSQ. 2017年9月号)
神戸にやってきた珠彦とユヅは、暫く珠介の元で厄介になることなった。その時、部屋で休んでいた珠彦の元に、綾が訪ねてきた。

最終話「春ノ嵐ノ日」(初出:ジャンプSQ. 2017年10月号)
珠彦とユヅは、立花夫妻として日々の生活を送っていた。しかし、2人は今だに結婚式を挙げることが出来ず、それを見かねた珠子は・・・。

番外編「珠彦先生2」(初出:ジャンプSQ.CROWN 2017 WINTER)
ある日、ユヅは珠彦に自転車の乗り方を教わる。

紆余曲折を迎えながら少しずつ絆を深めてきた、珠彦とユヅの物語が遂に終わりを迎えた。全42話という比較的短い話数ながらも、1つ1つの話の密度は濃く読み応えのあるものとして、最後迄走り抜けられたと思っている。

第三十三話での珠彦と珠義の対決は、今回の大きな山場の1つと言っても過言ではないだろう。珠義も最初から羅刹としての人生を歩んでいた訳ではなく、自分の好きな人がお金持ちの家に嫁いだことが、後の生き方を大きく変えることになってしまったのである。

しかし、珠彦は父と同じ道を辿ろうとはしなかった。ユヅを自分から引き離されようとも、父親を憎むことはしなかった。寧ろ、彼は感謝の言葉を贈ることで、羅刹への道を断ち切った。それも、ユヅがかつて珠彦に教えた「両親へ別れの言葉」を添えて、である。自分と同じ厭世家の性質を持つ父親を乗り越えることが、今迄の自分を本当の意味で乗り越えることになるのだろう。

実る恋が1つあれば、その裏で実らない恋もある。第三十七話で、綾の片思いに終止符がついた。震災の時からそれを感じさせる描写があった彼女だが、最後迄自らの秘めた想いを口には出すことはなかった。しかし、彼女もまた珠彦とユヅに関わることで、人としてより良い方向に成長したと思っている。

志摩家も珠義と珠代の2人だけになってしまった。珠義のその後は特に描かれていないが、珠彦の別れの挨拶はそれなりに、彼の心に残ったのではないかと思う。生き方を変えるにはもう色々な意味で難しいだろうが、彼のこれからの行いが少しでも良い方向に変化するのも、許されていいのではないか。珠代のその後については、昭和オトメ御伽話で描かれている。

珠彦の母親の生前についてはあまり触れられていないが、本当に彼女が愛している子供が珠央だけだとしたら、珠彦と珠子にとってはあまりに不憫な事実ではある。掘り下げれば掘り下げるほど、志摩家は不幸な一族ではないだろうか。

自分1人で成長するというのは難しいことではあるが、隣に誰かがいればそれも苦では無くなる。勿論、万事上手くいくとは限らないが、それでも前に進む力にはなるのだろ思う。大正処女御伽話は我々にそれを教えてくれる作品ではないだろうか。

珠彦とユヅが今迄暮らしていた生活は、確かに志摩によって与えられた「偽りの御伽話」だったかもしれない。しかし、2人はもう自分達で互いに支えあって生きることを選んだ。そんな彼等ならきっと、それを「本当のもの」に出来るだろう。彼等の「御伽話」は、もう彼等自身のものなのだから。

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