第十七話「 九月一日 -2-」(初出:ジャンプSQ. 2016年6月号)
関東大震災が起こり、ユヅが帰ってこないことに絶望を抱く珠彦。しかし、彼女が予め珠彦に宛てていた手紙を読んで・・・。
第十八話「綾ナス想ヒ」(初出:ジャンプSQ. 2016年7月号)
珠彦と綾はそれぞれの大切な人の為に、東京に向かい始める。道中では互いの心中を明かしあいながら、2人は仲良くなっていく。
第十九話「再会」(初出:ジャンプSQ. 2016年7月号)
東京に近づくにつれ、震災の惨さが2人に襲い掛かる。やっとのことで、東京駅に辿り着いた珠彦は意外な再会を果たす。
第二十話「夕月ヲ求メテ」(初出:ジャンプSQ. 2016年8月号)
珠彦は、震災の救護支援の手伝いにきていた珠子と再会する。珠子も加わり一生懸命ユヅを探す珠彦は、遂に美鳥を見つけて・・・。
第二十一話「ユヅ語リ」(初出:ジャンプSQ. 2016年9月号)
珠彦が目を覚まさないユヅに語り掛ける一方、彼女は夢を見ていた。ユヅが珠彦の元に来る直前から、今迄の2人の日々が彼女の独白と共に進んでいき・・・。
第二十二話「確志ノ瞳」(初出:ジャンプSQ. 2016年10月号)
ユヅが無事に目を覚まし安堵する一同の元に、珠義と珠代が訪れる。
特別編「春ノ嵐ト黒百合」(初出:ジャンプSQ.CROWN 2016 SUMMER)
第七話での夜の出来事の続きが、珠子の視点から語られる。
関東大震災編は、大正処女御伽話で差しかかかった大きな山場の1つであると思う。本作はフィクションではあるが、舞台を日本の大正時代と具体的に設定しているので、地道な時代考証を重ねることが物語の厚みを強くする重要な要因となるのである。そこで、珠彦の成長を大きく伝えるのに関東大震災を上手く活用したのは、桐丘さなの妙技と言えよう。
今回、名場面を1つ取り上げるとするならば、筆者は第二十話を選ぶだろう。特に、珠彦がユヅの親友である美鳥を見つけてから、気絶したユヅを彼が泣きながら抱え走る迄の一連の流れは、痺れるほどに素晴らしかった。その場面を読む度に、筆者は頭の中にBUMP OF CHICKENのファイターという曲が思い浮かぶのである。曲の内容とあの場面での珠彦の思いが、何処か重なっていく気がしていた。
ユヅが出てこない間、綾と珠子がヒロインとして物語を盛り上げていた。綾も弟の綾太郎の為に珠彦と共に東京に行こうとする、ガッツのある女の子である。初登場の時こそ意地悪な場面が目立っていたが、それも過去にユヅのように身を売られかけた過去が背景にあったのも明らかになった。弟たちを大切にする面倒見の良さや、ユヅにした意地悪をちゃんと反省出来るのが、綾の人間的に良い所である。
珠子も医者になるという志の為に、被災地で人々を救護する手伝いをしていた。そして、ユヅを探す半ばで弱気になりかけた珠彦の手を握り、彼を元気づけようとする健気な姿を見せていた。彼女もまた、ユヅに精神的に成長していた。
第二十一話では、これまでの物語がユヅの視点から語られていく。彼女が次第に珠彦に惹かれていき、彼を好きになるもののそれを伝えることがなかなか出来ないという、まさに処女らしい一面が分かりやすく丁寧に描かれている。そして、地震に遭い死と隣合わせの地獄を経験し、珠彦にやっと会えたことで感情を露わにして彼に気持ちを伝える場面は、ユヅが初めて見せた無防備な女の子らしい所が現れている。
震災を経て、珠彦とユヅの絆はまた1つ強いものとなった。そして、珠子や綾たちを始め、彼等の周りの人間たちにも良い影響を与えていく。一方で、父親の珠義や姉の珠代が表舞台に現れ始め、不穏な雰囲気を漂わせ始めた。珠彦とユヅの御伽話は、新たな頁へ進んでいく。